大阪高等裁判所 平成9年(ネ)1166号 判決 1998年6月30日
控訴人
中島康雄
右訴訟代理人弁護士
津乗宏通
被控訴人
中島興発株式会社
右代表者代表取締役
中島博司
右訴訟代理人弁護士
加島宏
同
田中稔子
主文
一 控訴人の本件控訴を棄却する。
二 控訴人の当審における予備的請求に基づき、控訴人と被控訴人との間において、控訴人が別紙物件目録二記載の土地のうち、別紙図面(三)の各点を順次結んだ直線で囲まれた部分につき、通行権並びに同土地上及び地中の上下水道、ガス、電気及び電話の配管、配線権を有することを確認する。
三 控訴人の当審におけるその余の予備的請求を棄却する。
四 当審における訴訟費用は、これを五分し、その一を被控訴人の、その余を控訴人の各負担とする。
事実及び理由
第一 控訴人の求めた裁判
一 控訴の趣旨
1 原判決を取り消す。
2 控訴人と被控訴人との間において、控訴人が別紙物件目録一記載の土地のうち、別紙図面(一)①②③④⑤①の各点を順次結ぶ直線で囲まれた部分について、通行地役権並びに同土地上及び地中の上下水道、ガス、電気及び電話等の配管、配線権を有することを確認する。
3 被控訴人は、右2の土地部分について、控訴人の通行並びに同土地上及び地中の上下水道、ガス、電気及び電話等の配管、配線等の妨害となる一切の行為をしてはならない。
二 当審における予備的請求
1 予備的請求(一)
控訴人と被控訴人との間において、控訴人が別紙物件目録二記載の土地のうち、別紙図面(二)の各点を順次結ぶ直線で囲まれた部分について、通行地役権並びに同土地上及び地中の上下水道、ガス、電気及び電話等の配管、配線権を有することを確認する。
2 予備的請求(二)
控訴人と被控訴人との間において、控訴人が別紙物件目録二記載の土地のうち、別紙図面(三)の各点を順次結ぶ直線で囲まれた部分について、通行地役権並びに同土地上及び地中の上下水道、ガス、電気及び電話等の配管、配線権を有することを確認する。
第二 事案の概要
本件事案及び当事者の主張の概要は、後記一、二のとおり当審における予備的請求にかかる分を加え、次のように付加、訂正するほか、原判決の「第二 事案の概要」欄の柱書及び「一 請求原因の概要」に記載のとおりであるから、これを引用する。
一 原判決四頁二行目の次に、次のとおり加える。
「当審において、控訴人は、予備的に、被控訴人所有の後記本件第二土地のうち、別紙図面(二)の各点を順次結ぶ直線で囲まれた部分(予備的請求(一))又は別紙図面(三)の各点を順次結ぶ直線で囲まれた部分(予備的請求(二))に通行権を有すると主張し、同土地につき通行権並びに右各土地上及び地中に、ガス、上下水道、電気及び電話等の配管、配線権を有することの確認を求めた。」
二 同七頁一行目の次に、次のように加える。
「5 仮に、本件第一土地につき、控訴人が右3の(一)の通行権及び(二)の囲繞地通行権を有していないとしても、本件第三土地は袋地であるから、控訴人は、被控訴人の所有する本件第二土地につき、別紙図面(二)を順次結んだ直線で囲まれた部分につき、仮にこれが認められないとしても、同図面(三)を順次結んだ直線で囲まれた部分につき、民法二一三条又は同法二一〇条の通行権を有する。
6 その幅員については、建築基準法四二条、四三条の接道義務の規定、地方公共団体により、これを上回る条例規制等の地域的慣行があること、現代社会における自動車通行の必要性とこれに支障のない幅員確保等の見地から、本件においては、四メートル幅員の通路を認めるべきである。」
三 同頁二行目から五行目までを次のように改める。
「二 被控訴人の主張の概要
1 契約等の不存在
控訴人主張のような奥とくのと被控訴人との通行権設定契約の存在を認めるに足りる証拠は全くない。
控訴人は、本件第四土地が昭和三六年一二月当時から道路ないし私道であったことを前提としているが、当時本件第四土地はその区画すら明確ではなく、道路はおろか工場内の通路として使用されていた事実もない。本件第四土地が工場内通路として使用されるようになったのは、昭和四四年ボーリング場の建設に伴ってのことであり、それは、控訴人が通行権設定契約の締結を主張する八年も後のことである。
2 仮に、本件第三土地が袋地であるとしても、本件第四土地は私道ではなく、被控訴人の時々の利用状況に応じて使用されてきたものに過ぎず、現在でも、本件第四土地は、駐車場スペースとしての本件第一土地への通行区分スペースとして利用されており、その出入口にロボットゲートを置き、被控訴人から支給された操作器を所持する契約者だけが出入しており、部外者は立入ができない。
この部分を私道ないし通路とする控訴人の前提は誤っており、本件第一土地に囲繞地通行権は発生しない。
3 被控訴人にとって、最も被害の少ない控訴人の通行の範囲及び方法は、本件第二土地のうち、北側の幅員二メートルの別紙図面(三)のの各点を順次結んだ直線によって囲まれた部分であり、被控訴人は、右部分について控訴人の通行を受忍するものの、他の場所及び二メートルを越える幅員については到底受け入れ難い。
4 控訴人は、通行権のほか、地上及び地中に、ガス、上下水道、電気及び電話等の配管及び配線等の権利を有することの確認を求めるが、囲繞地通行権の規定を通行権以外の権利にむやみに類推することは許されず、これらの権利については、誠実な交渉とこれに対する対価の支払によって取得すべきである。
5 また、妨害予防請求権は、将来の給付請求であると解されるところ、これを必要とする理由の主張立証がない。
三 争点
1 奥とくのは、民法二一三条に基づき、本件第四土地に囲繞地通行権を取得したか。
2 奥とくのと被控訴人とは、本件第三土地の譲渡にあたり、本件第四土地に通行権を設定する契約を締結したか。
3 控訴人は、民法二一〇条に基づき、本件第四土地に囲繞地通行権を取得したか。
4 控訴人は、民法二一三条又は二一〇条に基づき、本件第二土地に囲繞地通行権を取得したか、また、その範囲はどこか(当審における予備的請求)。
5 通行権以外の権利の確認について
四 証拠関係
原審における書証目録及び証人等目録並びに当審における書証目録記載のとおりであるから、これを引用する。」
第三 判断
一 当裁判所も、控訴人の原審における請求は、いずれも理由がないから、これを棄却した原判決は相当であると判断する。
その理由は、次のとおり付加、訂正するほか、原判決の七頁七行目から一九頁一一行目までのとおりであるからこれを引用する。
1 原判決七頁七、八行目を「一争点1について」と改める。
2 同一一頁五行目から同一四頁二行目「認められる)、」までを次のように改める。
「2 右1の認定事実によれば、奥とくのは、被控訴人が分筆した本件第三土地を取得したが、右分筆の結果、本件第三土地が公路に通じなくなったのであるから、ここから公路に至るため、被控訴人所有の第一土地又は第四土地の一部を通行できる権利を取得したというべきであるが、実際には、奥とくのは、本件土地に居住することもなく、被控訴人の自由な使用に対し、何らの異議を唱えず、控訴人との交換により本件第三土地を譲渡するまで、現実の使用又は通行の必要性を全く生じなかったことが認められる。したがって、奥とくのの囲繞地通行権は、現実の必要性を伴わない極めて観念的な権利であって、その通行権の範囲及び方法も特定していなかったものというほかはない。このことは、分筆の時点において本件第三土地から公路に至る方法が、本件第四土地の通行という唯一のものに限られず、東側の本件第一土地を通って更に東側の被控訴人所有の工場用地(四二三番の土地)を通り、北側の阪奈道路へ抜ける方法もないではなかったことから明らかである。
したがって、奥とくのが本件第三土地の取得により、当然に本件第四土地上に通行権を取得したものと認めることはできず、このことは、奥とくのが本件第四土地上の通行を当然のものと認識していたとか、期待していたとかの事情があったとしても同様である。」
3 同頁八行目の「二」の次に「争点2について」を、同一〇行目の「三」の次に「争点3について」を加え、それぞれ改行する。
4 同一五頁七行目の「喜久男」を「亀久男」に改める。
5 同一八頁四行目の「をするが、」から同九行目末尾までを次のように改める。
「をする。確かに、右一の1の(三)によれば、被控訴人の工場の移転後本件第四土地は、工場へのトラックの通路部分となったため、これに伴い、被控訴人の従業員が工場と西側道路との往来をしていた事実が推認されるほか、現在本件第四土地がアスファルト舗装されていることは当事者間に争いがない。しかし、右三の1の(一)、(四)によれば、本件第四土地は、かつて西側公道とは鉄製の柵で仕切られていた工場用地(構内)の一部であったものであり、現在でも、西側道路とはロボットゲートで仕切られた駐車場の進入スペースとして使用されており、これらの事実によれば、専ら被控訴人のときどきの使用目的に適うよう、被控訴人の排他的占有下に置かれてきたものというべきであるから、単に現況が通路としての外形を呈しているとの事実をもって、一般通行者の通行を容認する通路の開設と同視することはできない。そして、被控訴人が将来にわたり、本件第四土地を排他的に管理する意向を有することは、弁論の全趣旨から明らかである。」
6 同頁一〇行目の冒頭に「なお、昭和四三年五月に被控訴人が本件第二土地を取得した後においては、」を加える。
7 同一九頁一〇、一一行目を次のように改める。
「右認定の諸事実によると、本件第四土地については、控訴人が通行権並びに同土地上及び地中に、ガス、上下水道、電気及び電話等の配管、配線をする権利を有し、被控訴人がその妨害行為をしてはならない義務を負っていると認めることはできない。」
二 争点4について
控訴人は、当審において、第二の一の5のとおり主張する。
第三の三の2のとおり、被控訴人が第二土地の所有権を再取得したことにより、本件第三土地のため、控訴人は、民法二一三条所定の通行権を取得したものと解されるところ、被控訴人も本件第二土地の別紙図面(三)の各点を順次結んだ線分により囲まれた部分の範囲で、控訴人の通行権を認め、その範囲は被控訴人にとって最も負担の少ないものと認められる。
控訴人は、第二の一の6のとおり主張し、右の範囲を越えて、別紙図面(二)の各点を結ぶ線分により囲まれた部分(すなわち、幅員四メートルの範囲)に通行権を認めるべき旨、また、これが認められないとしても、別紙図面(三)のの各点を順次結んだ線分により囲まれた部分(いわゆる隅切部分を含む幅員二メートルの範囲)に通行権が認められるべき旨主張する。
まず、通行権の認められるべき通路の幅員につき検討すると、建築基準法の規制上、本件第三土地に建物を建築するためには、二メートル以上公道に接することをもって足りるところ、本件第三土地の所在する地方公共団体の条例その他において、これを上回る規制がされていることについては立証がないし、通常の場合二メートルの幅員では自動車の通行に支障をきたすものとは認められず、自動車通行に支障のない幅員として、四メートルが必要不可欠であるとも認められない。そして、他に四メートルの幅員につき通行権を認めるのを相当とする事情は認められない。
次に、別紙図面(三)の、、、の各点を順次結んだ線分により囲まれた隅切部分の必要性につき検討すると、確かに、この部分がないと、公路からの、又は公路への出入りの際、自動車の右折又は左折に若干の不便を伴うことが推認されるところであるが、検甲一の1、2、乙一二によれば、西側の公道は、幅約九メートルの鴻池新田停車場線であって、その幅員が比較的広いことから、被控訴人の負担との関係を考慮すると、右部分に通行権を肯定することは相当ではないと判断される。
三 争点5について
控訴人は、第二の一の4のとおり、上下水道、ガス、電気、電話等の配管、配線の権利が当然に認められるべき旨主張する。
検甲一の1ないし4、二の1ないし8、検乙一、二によると、本件第三土地の周辺は建物が密集し、本件第三土地も建物用地として用いるのが最有効利用方法であり、弁論の全趣旨によると本件第三土地へは他人の土地を経由しなければこれに上下水道、ガス、電気、電話を引き込むことができず、現在これらの引込みがされていないことが認められ、本件第二土地西側の公道が広いことからすると、ここに上下水道、ガス、電気、電話の本線が存するものと推認される。
ところで、土地を住宅又は事務所等として用いるには、現在では、上下水道、ガス、電気、電話の利用は欠くことのできないものである。そして、民法の相隣関係諸規定の精神、下水道法一一条、電気事業法一八条一項、ガス事業法一六条一項、水道法一五条一項、電気通信事業法七条、三四条等の関連法規を総合的に考慮すれば、他人の土地を経由しなければこれらの管、線を自己所有地に引き込むことができないときは、他人の土地のうち最も損害の少ない場所をこれらの管、線の引き込みに必要な限度で使用することができ、他方その土地の所有者に償金を払う義務があると解するべきである。本件においては前記二において認めた土地については控訴人に通行権を認めるべきである以上、この土地が右管、線の引入れをさせるにつき、被控訴人にとっても最も損害の少ない土地と解される。
よって、前記二に認めた範囲の土地につき控訴人は上下水道、ガス、電気、電話の配管、配線をする権利を有するというべきである。しかし、右範囲の土地を越えて配管、配線をする必要があると認めることはできない。
第四 結語
よって、原審は相当であるから本件控訴を棄却することとし、控訴人の当審における請求は、本判決主文第二項の限度で理由があるからこれを認容するが、その余の予備的請求は理由がないからこれを棄却すべきであり、当審における訴訟費用の負担につき民訴法六一条、六四条を適用して、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官井関正裕 裁判官前坂光雄 裁判官三代川俊一郎)
別紙<省略>